1 / ARCHITECTURE
業務AIの基本構成
問い合わせ対応でも帳票処理でも、業務AIは同じ5段で構成します。モデルに任せるのは「AIによる判断」の段だけで、前後の段は確実に動くプログラムと人の確認で固めます。
- 1入力
メール、フォーム、PDF、録音、チャットなど、業務が始まる地点。入力の種類と量、誤りの混ざり方をここで把握します。
- 2データ整形・検索
文字起こし、文書解析、項目の構造化。社内文書を参照する場合は、閲覧権限を付けた検索基盤(RAG)から必要な箇所だけを取り出します。
- 3AIによる判断
分類、抽出、要約、回答案や登録候補の生成。モデルに任せるのはこの段だけで、判断の根拠を出力に含めます。
- 4既存システムとの連携
会計、販売管理、タスク管理、チャットへの書き込み。入力検証と権限を持つプログラムが担い、モデルに直接書かせません。
- 5人の確認・記録
担当者が承認して確定します。迷う案件は人へ引き継ぎ、入力・出力・参照元・判断の記録を残します。
応用例
同じ5段を業務に当てはめると、次のようになります。部品は対象業務、既存システム、情報の取り扱い条件に応じて選びます。
| 業務 | 入力 | データ整形・検索 | AIによる判断 | 既存システムとの連携 | 人の確認・記録 |
|---|---|---|---|---|---|
| 問い合わせ対応 | メール / フォーム / チャット | 過去の回答、FAQ、製品資料の検索 | 分類と回答案の生成 | 対応記録への転記 | 担当者が承認して送信 |
| 帳票・書類の処理 | PDF / スキャン画像 | 文書解析で項目を構造化 | マスタとの照合、登録候補の作成 | 会計・販売管理システムへ登録 | 差分と例外だけを確認 |
| 会議の議事録 | 会議の録音 | 文字起こしと話者の整理 | 要約、決定事項、タスクの抽出 | タスク管理ツールへ起票 | 担当者が修正して確定 |
| 社内文書の検索 | チャット(Teams / Slack) | 権限付きの文書検索 | 参照元を示した回答の生成 | 回答と参照元のリンク | 根拠が足りなければ「分からない」と返し、人へ |
2 / DESIGN
RAGとAIエージェントの設計
最初に、ワークフローで組むかエージェントで組むかを決めます。社内文書を参照する場合は検索基盤(RAG)を、既存システムを操作する場合はエージェントを、それぞれ次の点を先に決めて設計します。
ワークフローか、エージェントか
- 手順が決まる仕事分岐と処理順を固定したワークフローで組みます。結果が再現でき、保守と費用の見通しが立ちます。
- 判断が状況で変わる仕事モデルがツールを選んで呼び出すエージェントで組みます。呼び出せるツールと回数、停止条件を先に決めます。
- 混在する仕事ワークフローを骨組みにし、判断が必要な段だけにエージェントを置きます。必要な複雑さだけを選びます。
根拠にたどれる回答にする
- 文書の整備検索対象の範囲と鮮度、更新の担当を決めます。古い版や下書きは検索対象から外します。
- 閲覧権限利用者が見てよい文書だけを検索します。権限は元のシステムから引き継ぎ、AI側で別管理しません。
- 回答の形参照元を必ず示し、根拠が足りないときは「分からない」と返して人に引き継ぎます。
任せる範囲を仕組みで限定する
- ツールの定義読み取りと書き込みを分け、書き込みには入力検証を付けます。実行できる操作を列挙で限定します。
- 再試行と停止失敗時の再試行回数、途中で止める条件、止めたときの引き継ぎ先を決めます。
- 途中経過の記録どのツールをどの順に呼び、何を根拠に判断したかを残し、後から追えるようにします。
3 / EVALUATION
評価と品質管理
「動いた」と「使える」は別です。実務を代表する評価セットと合格基準を先に作り、試作の段階から本番の運用まで、同じ基準で測り続けます。
実務を代表する入力で測る
- 作り方実際の入力から、典型例、例外、うまくいかない例を集めます。最初の45日で試作しながら集めるものが土台になります。
- 合格基準「人の修正なしで使える割合」「見落としてはいけない項目の網羅」など、業務ごとに数値で決めます。
品質を一つの数字にしない
- 正確性出力が正しいか。金額や日付など、誤りの影響が大きい項目は個別に測ります。
- 網羅必要な項目や論点が落ちていないか。
- 確認工数と所要時間人が確認・修正にかける時間。導入効果は主にここで測ります。
変更のたびに同じ基準で測る
- 変更時モデル、指示文、検索対象を変えたら、同じ評価セットで再評価してから切り替えます。
- 本番のログから人が修正した案件を評価セットに追加し、基準を更新します。
4 / OPERATION
権限・ログ・人の承認
AIが何をしてよいかを権限で限定し、影響の大きい操作の前に人の承認を置き、経緯を記録に残します。問題が起きたときに、担当者が原因を追い、止め、引き継げる状態を運用の条件にします。
AIが触れる範囲を先に決める
- 読み取りと書き込みの分離書き込みは対象と条件を限定し、金額や取引先など影響の大きい項目は人が確定します。
- 利用者ごとの権限AIが代行する操作は、利用者本人の権限の範囲に収めます。
人が最終判断できる形にする
- 承認の位置外部への送信、システムへの登録、支払いに関わる操作の前に、人の承認を置きます。
- 停止と引き継ぎ止め方と、止めたあと誰がどう処理するかを手順書に書きます。
あとから経緯を追えるようにする
- 残すもの入力、出力、参照した文書、判断の根拠、人の修正内容。
- 使い方問題が起きたときの原因の特定と、評価セットの更新に使います。保持期間は情報の種類ごとに決めます。
5 / MODELS AND PLATFORMS
モデルと基盤の選定基準
特定の製品に縛られず、役割ごとに選びます。企業がすでに契約している環境を優先し、足りないところだけを足します。対応する主なモデル・プラットフォームの一覧は事業紹介に掲載しています。
- 既存の契約環境を優先すでに契約している Microsoft、Google、AWS の環境で動かせるものを先に検討し、足りないところだけを足します。
- データの取り扱い条件学習への利用の有無、保存先の地域、保持期間、ログの扱いを条件として比較します。
- 日本語と長文の性能対象業務の実データで評価セットを作り、モデルごとの正確性と網羅を比べます。
- 費用と応答速度処理1件あたりの費用と、業務で許容できる待ち時間で絞ります。
- 社内環境での実行外部に出せない情報を扱う場合は、オープンモデルを社内環境で動かす構成を検討します。
役割ごとの位置づけ
判断と生成を担う
- OpenAI(GPT)汎用の対話・生成
- Claude長文の読解、エージェントの制御
- GeminiGoogle Workspace との連携
- Hugging Faceオープンモデル。社内環境での推論
企業向けに安全に動かす
- Azure OpenAI ServiceMicrosoft 環境での利用、データの取り扱い条件
- Amazon BedrockAWS 環境での複数モデルの利用
- Microsoft 365 CopilotOffice と Teams の中での活用
業務の流れとして組む
- Dify対話型アプリと業務フローの構築
- n8nシステム間の連携と自動化
- LangChainエージェントと検索基盤の実装
現場の入口と出口
- Notion AI文書とタスクの管理
- Slack / Teams社内の入口と通知
- メール / LINE顧客との接点
6 / SECURITY AND GOVERNANCE
セキュリティとガバナンス
AIに渡してよい情報を先に決め、使うサービスの取り扱い条件を確認し、社内ルールとして文書にします。技術の設定と社内の運用の両方で担保します。
渡す前に範囲を決める
- 情報の分類個人情報、取引先の機密、社内限定の情報を分け、AIに渡してよい範囲を社内ルールとして定めます。
- 入力の加工渡す必要のない項目は、渡す前に除く、または置き換えます。
サービスごとに確認する
- 学習への利用入力がモデルの学習に使われないこと(オプトアウトの設定や契約条件)を確認します。
- 保存先と保持期間データの保存場所(国・地域)と保持期間、削除の方法を確認します。
使い方を決めて、定期的に見直す
- 社内ルール扱ってよい情報、使ってよいサービス、確認の手順を文書にし、研修で共有します。
- 著作権の確認文書や画像を生成する業務では、参照した素材と出力の扱いを文化庁の考え方に沿って確認します。
- 定期の見直しサービスの規約変更、法令やガイドラインの改訂に合わせて、ルールと設定を見直します。
7 / GUIDELINES
公的ガイドラインとの対応
上の各節で説明した設計の原則を、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」の共通指針に対応づけて運用しています。右の欄は、各原則が主に対応する指針と、このページの該当する節です。
参照している公的文書
- AI事業者ガイドライン 第1.2版 ↗総務省・経済産業省、2026年3月
10の共通指針。上の表の「対応する指針」はこの文書の指針名です
- テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン ↗情報処理推進機構(IPA)、2024年7月
導入・運用・セキュリティの担当ごとの考慮事項。運用設計とセキュリティの節に反映
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について ↗個人情報保護委員会、2023年6月
入力情報の学習利用と目的外利用の確認。原則05の根拠
- AIと著作権に関する考え方について(チェックリスト&ガイダンス) ↗文化庁、2024年3月・7月
文書や画像を生成する業務での確認項目。社内ルールの著作権の項に反映
- デジタルスキル標準 ver.2.0 ↗経済産業省・IPA、2026年4月
「AI実装・運用」「AIガバナンス」のスキル定義。研修プログラムの設計に対応づけ
代表の研究経歴と、研究の手法を実装に活かす考え方は「私たちについて」に掲載しています。
代表プロフィール ↗