45日間の進め方を設計例として提示します。特定の事例や調査結果をもとにしたものではなく、導入支援で繰り返し問われる判断の構造を整理した型です。組織の規模や業務の複雑さによって調整が必要ですが、「どの週に何を決め、何を判断するか」の骨格として使ってください。
はじめに
この設計例は7週間を基本単位にしています。各週には「目的」「やること」「アウトプット」「この週の終わりに判断すること(ゲート)」を設けています。ゲートを通過できない場合は、その週の作業を繰り返すか前提条件を整えてから次に進んでください。判断の先送りは後のフェーズで必ず詰まりを生みます。
対象は「1つの業務を選び、動かせる状態まで持っていく」ことです。複数業務の並行・全社展開・基幹システムへの書き込みは対象外です。
第1〜7週 全体ロードマップ
| 週 | 目的 | 主なアウトプット |
|---|---|---|
| 第1週 | 対象業務の候補を絞る | 業務候補リスト(3〜5件)+選定基準メモ |
| 第2週 | 1業務を選定し、工程を分解する | 工程分解表・役割分担メモ |
| 第3週 | 小規模検証の準備と実施 | 検証手順書・出力サンプル・フィードバックメモ |
| 第4週 | 検証結果の評価と整理 | 評価記録・例外パターン一覧・評価セット原型 |
| 第5週 | 運用フローの設計と文書化 | 運用手順書・確認フロー図 |
| 第6週 | 現場への引き渡し準備 | 移管チェック完了・担当者説明会 |
| 第7週 | 稼働開始と最初の振り返り | 初回振り返りメモ・継続判断記録 |
各週の設計と判断ゲート
着手前チェック。この45日を始めてよい状態かを確認してください。
- 対象業務が1つに絞られており、経営者と現場の合意がある
- 推進担当者が1名決まっており、週次で時間を確保できる状態にある
- 業務責任者(評価の責任を持つ人)が推進担当者とは別に明文化されている
- 情シスまたは権限管理を担当する人が、このプロジェクトに関与できる見通しがある
- 検証期間中、現場担当者が出力確認に参加できる見通しがある
- 外部支援がある場合、契約範囲と連絡体制が確定している
すべてに「はい」が付かない場合は着手を見直してください。条件が整わないまま進めると、第3〜4週のどこかで判断が取れなくなります。
第1週: 対象業務を選ぶ
目的は「最初に手をつける業務を1つに絞る」ことです。この週は選定作業が中心で、実装には入りません。
やること: 社内の業務を洗い出し、候補を3〜5件挙げます。選定基準は「正解の形が決まっている」「失敗したときの影響が小さい(後から修正できる)」「繰り返し性がある」の3点です。
アウトプット: 業務候補リストと、各候補に対して選定基準を当てはめた評価メモ。
ゲート: 「この1業務から始める」という合意が、経営者・推進担当者・現場担当者の3者で取れているか。
第2週: 業務を分解し、役割を決める
目的は「AIに任せる部分・確認する部分・人が決める部分」の境界を引くことです。
やること: 選んだ業務を動作の単位で分解します。「問い合わせ対応」なら「受信・分類・回答案の作成・担当者確認・送信」のように工程を切り分け、工程ごとに「任せる」「確認する」「人が決める」の3区分を割り当てます。このレベルで分解しておかないと、どこにAIを入れるかが決まりません。工程分解表が完成したら、役割分担(業務責任者・推進担当者・情シス・外部支援)も同時に文書化しておきます。
アウトプット: 工程分解表(工程名・担当・3区分)+役割分担メモ
ゲート: 工程分解が現場担当者に確認されているか。役割が文書化されているか。
第3週: 小規模検証を実施する
目的は「選んだ業務でAIが使えるかを、小さく確かめる」ことです。
やること: 工程分解表で「任せる」に分類した工程から、最も条件が明確な1工程を選びます。実際のデータ(または匿名化したサンプル)でAIの出力を試し、結果を正解・不正解・例外の3種に記録します。現場担当者にも出力を見てもらい、「この出力で次の工程に進められるか」という観点でフィードバックをもらってください。
アウトプット: 検証手順書・出力サンプル・フィードバックメモ
ゲート: 下記の第3週ゲートチェックを確認してください。
第3週ゲートチェック。検証に進んでよいかを確認してください。
- 検証に使ったデータが、実運用で想定されるパターンを代表している
- 出力の「正解」の基準を、検証前に現場担当者と決めていた
- 現場担当者がサンプルを確認し、フィードバックが記録されている
- 例外パターン(AIが対応できないケース)の種類と頻度の傾向が把握されている
- 使用データの取り扱い範囲(個人情報・機密情報)を確認した
- このまま次のフェーズに進む判断を、業務責任者が下している
第4週: 検証結果を評価する
目的は「本番運用に進んでよいか、または条件をどう変えるかを判断する」ことです。
やること: 第3週の出力サンプルとフィードバックをもとに精度の評価を行います。評価とは数値を出すことではなく、「この出力品質が実用に足るか」を業務の基準で判断することです。評価セット(「この入力にはこの出力が正解」というペアの集合)を整理しておくと、後の改善と引き継ぎの基準になります。例外パターンは評価セットの「境界ケース」として記録してください。
アウトプット: 評価記録(正解・不正解・例外の分類と傾向)+評価セットの原型
ゲート: 「現場担当者が毎日使える状態か」という問いに、業務責任者が答えを出しているか。
第5週: 運用フローを設計し、文書化する
目的は「現場が迷わずに使える手順を作る」ことです。
やること: 工程分解表と評価記録をもとに運用手順書を作ります。①AIと人の工程の区別、②出力が基準を外れたときの対処、③品質確認の担当者と頻度、④監査ログの保存場所——の4点を必ず含めてください。外部に出る処理がある場合は④を特に丁寧に設計します。
アウトプット: 運用手順書(2〜3ページ程度)+確認フロー図
ゲート: 現場担当者が手順書を読んで、独立して作業できる状態になっているか。
第6週: 現場への引き渡しを準備する
目的は「推進担当者が手を離しても、現場が動き続けられる状態にする」ことです。
やること: 現場担当者への説明会を実施します。ツールの操作説明に終わらせず、「どこでAIに任せ、どこで人が判断するか」「何かおかしいと感じたときの連絡先」を確認してください。同時に、問題が起きたときにAIを使わずに業務を戻せる手順を明示しておくことが、現場の安心感に直結します。
アウトプット: 説明会の実施記録+Q&Aメモ+エスカレーション先の明文化
ゲート: 下記の運用移管チェックを確認してください。
運用移管チェックリスト。現場に渡してよいかを確認してください。
- 運用手順書が現場担当者にレビューされ、修正が反映されている
- 「任せる・確認する・人が決める」の区分が、担当者全員に説明されている
- 出力が基準を外れたときの連絡先と対処手順が決まっている
- 問題発生時にAIなしで業務を戻せる手順が保存されている
- 品質確認の担当者と頻度が文書化されている
- 監査ログの保存方法と確認担当者が決まっている
- 経営者または業務責任者が、本番稼働の開始を承認している
第7週: 稼働開始と最初の振り返り
目的は「現場が動かし始め、最初の課題を記録する」ことです。
やること: 稼働を開始し、最初の1週間の運用を記録します。週の終わりに「想定通りだったこと」「想定外だったこと」「変更が必要な点」の3点を現場担当者と推進担当者で整理します。この記録が次の改善サイクルの起点になります。
アウトプット: 初回振り返りメモ(課題・改善案・継続判断)
ゲート: この業務を継続するか、条件を変更するか、停止するかの判断が業務責任者から出ているか。
体制と役割の設計
45日を動かすには4つの役割が必要です。
業務責任者: 導入が業務として成立しているかを最終評価し、各ゲートの判断を下します。推進担当者との兼任は不可です。
推進担当者: 進行・調整・ドキュメント維持を担います。この役割がいないと45日は形骸化します。
情シス(または権限管理者): ツールのアクセス設定、データの取り扱い範囲の確認、監査ログの保存先管理を担います。実装前から関与が必要です。
外部支援: 業務分解・ツール選定・フロー設計・実装を担います。当社が入る場合は、第1〜2週の業務分解から参加し、評価セットの設計と運用手順書の骨格を共同で作る形で関わります。ゲートの判断は常に社内の業務責任者が下してください。
よくある脱線パターン
途中で対象業務を広げる。 第3週あたりで追加の話が出ることがあります。広げた瞬間に検証対象が曖昧になり、評価ができなくなります。追加案件は記録だけして45日後まで動かさないことが原則です。
ツール比較に時間を使う。 工程分解表が完成していない段階では、何を比較すべきかが決まっていません。ツール選定は分解が終わってから行います。
精度の基準を決めずに検証に入る。 「とりあえず動かしてみる」は計画ではありません。「何をもって使えると判断するか」を先に決めていないと、ゴールのない検証が続きます。
運用責任者を決めずに本番に出す。 「誰がこの出力を継続的に確認するか」を稼働前に決めておくことが、運用継続の条件です。推進担当者が本番後も担い続けるパターンは早晩破綻します。
45日でやらないこと
着手前に合意しておくことで、後の範囲拡大を防ぎます。
- 複数業務の同時並行
- 全社展開、または部署横断での一斉導入
- 基幹システムへの書き込み(発注・支払い・契約の確定など)
- 承認なしで外部に出る処理の自動化
- 推進担当者なしの現場任せでの運用開始
- 第7週の振り返りが出る前の「次の業務」への着手
これらを「やらない」と先に合意しておくことが、この期間を機能させる前提です。
45日の後に何が残るか
45日が終わったとき、「完成品」ではなく「続けられる土台」が残っているべきです。工程分解表、評価セット、運用手順書、振り返りメモ——これらのドキュメントは、次の業務に展開するときの出発点になります。
推進担当者が「どこでAIに任せ、どこで人が判断するか」を自分の言葉で説明できるようになっていること、現場担当者がAIの出力を「確認するもの」として扱えるようになっていること、業務責任者が品質の基準を持って承認できるようになっていること。これらは、ツールを入れるだけでは得られない、45日という期間が組織に残すものです。
業務の設計を継続的に更新し、判断の責任を明確に保つ仕組みを持つこと。それが45日の先にある、本来の課題です。

ORGANIZATION / 2026.09.04
ADOPTION / 2026.09.01
REPORT / 2026.06.30
AGENTS / 2026.08.25
CONNECT / 2026.08.18
NEWS / 2026.07.23
EVALUATION / 2026.07.07
KNOWLEDGE / 2026.06.23
AGENTS / 2026.06.02
OPERATIONS / 2026.05.19
CONNECT / 2026.04.28