エージェントを「一回答えて終わるシステム」として設計するか、「繰り返し動いて目標を達成する仕組み」として設計するかで、対応できるタスクの範囲と信頼性は根本的に変わります。この「繰り返し動く仕組み」の設計を、近年ループエンジニアリング(loop engineering)と呼ぶことがあります。
エージェントループの起点:ReAct フレームワーク(ICLR 2023)
エージェントループの概念を学術的に確立したのは、Shunyu Yao ら(Princeton・Google)による論文「ReAct: Synergizing Reasoning and Acting in Language Models」(arXiv:2210.03629)です。ICLR 2023 で発表されたこの研究は、LLM を次のサイクルで動かすフレームワークを提案しました。
- Thought(思考) — 次に何をすべきかをモデルが推論する
- Action(行動) — ツールを呼ぶ、検索する、計算するなどの実行
- Observation(観察) — 実行結果をモデルが受け取る
- このサイクルを繰り返して目標に近づく
論文では ALFWorld(テキストゲーム環境)で模倣学習ベースラインを34ポイント上回り、WebShop でも10ポイント上回る成功率を示しました。
「ループエンジニアリング」という語自体は、後に Addy Osmani(Google Chrome Developer Advocate)が2026年6月に「目標を定義し、作業が完了・検証されるまでツールとチェックのループが回る」という意味で使用しています。ただし、この用語の一次論文や公式ドキュメントは2026年9月時点では未確認のため、「近年そう呼ばれることがある」程度に受け取ってください。
「一回答えれば終わり」との違い
| 設計 | 向いているタスク | 限界 |
|---|---|---|
| 単発推論(Single-shot) | 要約・翻訳・分類など明確な入力・出力があるタスク | 複数の手順が必要なタスクでは精度に限界がある |
| エージェントループ | 調査・計画・実装・検証など複数ステップを繰り返すタスク | 停止条件がないとコストが膨張し続ける |
エージェントループが有効なのは、「正解の前に何ステップかかるかが事前にわからない」タスクです。逆に言えば、単発推論で解けるタスクにループを持ち込む必要はありません。
本番で設計すべき4つの停止条件
ループが「回りっぱなし」になると、コストと時間が無限に増加します。以下の4つは設計段階で決めておかなければならない事項です。
① 回数上限(Max iterations)
「何ステップ経過したら強制終了するか」を設定します。タスクの性質によりますが、上限なしのループは本番では禁止とするのが安全な出発点です。上限に達したときの挙動(エラーを返す・途中結果を返す・人に渡す)も合わせて定義してください。
② コスト上限(Budget cap)
1タスクあたりのトークン消費(≒費用)に上限を設けます。エージェントが意図せず大量のツール呼び出しを繰り返しても、コストが一定を超えた時点で止まる仕組みです。マルチエージェント構成では、オーケストレーターとサブエージェントのコストを合算して管理する必要があります。
③ 人への差し戻し条件(Escalation trigger)
「エラーが3回続いたら人間に渡す」「決定に確信が持てないフラグが立ったら承認を求める」などの条件を定義します。Anthropicの「Building Effective Agents」でも、チェックポイントでの人間フィードバック要求がエージェント設計パターンとして挙げられています。完全自律のループが失敗したときの収拾コストは、承認ステップを入れるコストより大きくなりやすいです。
④ 完了の判定(Termination criterion)
「タスクが成功したとはどういう状態か」を定義します。この定義が曖昧だと、エージェントは「念のためもう一回」を際限なく繰り返します。成功・失敗・不確実の3状態を明示的に定義し、それぞれの次の挙動を決めてください。
ループを「動かす」のは難しくありません。問題は「いつ、どのように止めるか」です。停止設計のないエージェントは、動き続けるほどリスクとコストが増加します。ループの設計とは、回す設計と同時に止める設計でもあります。
参考

ORGANIZATION / 2026.09.04
ADOPTION / 2026.09.01
REPORT / 2026.06.30
CONNECT / 2026.08.18
ROADMAP / 2026.08.04
NEWS / 2026.07.23
EVALUATION / 2026.07.07
KNOWLEDGE / 2026.06.23
AGENTS / 2026.06.02
OPERATIONS / 2026.05.19
CONNECT / 2026.04.28