2026年6月、現地企業との打ち合わせのため、当社メンバーがサンフランシスコに滞在しました。滞在期間は Databricks 社の年次カンファレンス「Data + AI Summit」(6月15〜18日、モスコーニセンター)の会期と重なり、市内はAIとデータ活用に携わる人々で賑わっていました。現地企業のスタッフとのディスカッション、会期中の街の様子、そしてAI企業の集積地でいま何が商売になっているのかについて、視察レポートをお送りします。
現地企業スタッフとのディスカッション
打ち合わせでは、AIの技術発展の速さを現場の実務者がどう受け止めているか、サンフランシスコのテック企業をめぐる情勢、そして今後の展望について、率直な意見交換を行いました。国内外でのAI導入の現在地を突き合わせ、次の一年で何が変わるかについて認識を揃える、滞在中で最も密度の濃い時間でした。
街全体が展示会場になっている
Data + AI Summit の会期中、会場周辺のブロックは参加証を下げた人で埋まり、企業向けのAIとデータ活用が街の話題の中心にありました。印象的だったのは屋外広告です。バス停や壁面の広告は、AI関連企業のものが圧倒的に多く、しかもその大半が企業向けのサービスでした。街に広告を出してそのまま顧客が増える商材ではありません。企業に対する信頼の形成と、技術者の採用に向けたブランディングが目的だと見るのが自然です。この街に広告を出せば意思決定者にも技術者にも届く、という計算が成り立つほど、AI企業が集積しているということでもあります。



広告の文言も雄弁です。「AIのための、最先端のデータベース」(ClickHouse)、「データの怪物にAIの革新を邪魔させるな」(Confluent)、「データにはダッシュボードの先がある」(Hex)、「あなたのAIは速い。データベースはどうか」(Phoenix)。売り文句がAIそのものではなく、AIを支えるデータ基盤に向いています。この街では、AIの次の勝負がすでにデータ側で始まっています。



供給側は、すでに分業が進んでいる
この街で存在感を放っている企業を、AIを業務で使うまでの工程に沿って並べると、供給側の分業がはっきり見えてきます。
| 工程 | 代表的な企業 | 役割 |
|---|---|---|
| 読み込む | Reducto | 契約書や帳票をAIが扱える形に整える |
| 教える | Mercor | 専門家の知見を学習データとして供給する |
| 動かす | Modal、San Francisco Compute | 実行環境と計算資源を用意する |
| 測る | LangSmith、Qodo | AIの挙動を観測・評価し、生成物を検査する |
| 蓄える・流す | ClickHouse、Confluent、Phoenix | AI向けのデータベースとデータ配信の基盤 |
| 分析する | Hex | ダッシュボードの先にある、AIと協働する分析環境 |
| 届ける | Vercel | AIアプリを公開し、運用する基盤 |
| 業務に組み込む | Zip、Outset、Prophecy、Crosby | 購買承認、顧客インタビュー、データ分析、法務 |
対話型AIそのものを売る会社は、この表にほとんどありません。売られているのは、AIを業務で使うための「配管」です。文書を読める形に整える、動かす場所を用意する、正しく動いているかを測る、そして特定の業務に組み込む。当社がハーネスやコンテキストエンジニアリングのコラムで繰り返し書いてきたことが、そのままこの街の産業構造になっていました。日本の企業がAI導入を考えるときも、問われるのはどのモデルを選ぶかではなく、この配管をどう組むかです。
主要AIカンパニーを取り巻くデータ市場
分業が進む背景には、AIの競争の軸がモデルからデータへ移っていることがあります。OpenAI、Anthropic、Google、Meta のモデルは性能で競り合い、利用料金は下がり続けています。モデルは誰でも借りられる。借りられないのは、自社にしかないデータと、それをAIに渡す仕組みです。だからこそ、データの周辺に市場が立ち上がっています。
市場は大きく三つに分かれます。ひとつめは学習データの供給です。単純なラベル付けの仕事は減り、医師や弁護士、エンジニアといった専門家の知見を学習データとして集める事業が伸びています。買い手は主要なモデル企業そのものです。ふたつめは企業データの基盤です。Databricks と Snowflake は 2025年に相次いで PostgreSQL のデータベース企業(Neon、Crunchy Data)を買収しました。AIエージェントが自らデータベースを作り、読み書きする時代に備えた動きです。データ配信基盤の Confluent は 2026年3月に IBM による買収が完了し、「リアルタイムデータをAIとエージェントのエンジンにする」と位置づけられました。街で見かけた Confluent の広告にも、小さく「an IBM Company」の文字が入っています。ClickHouse や Phoenix が「AIのためのデータベース」を掲げるのも同じ流れです。みっつめは非構造データの前処理と評価です。契約書や帳票をAIが扱える形に整える工程と、AIの出力を検査する工程が、それぞれ独立した事業になりました。
モデルを持たない企業にとっての含意は明快です。AI導入の投資先はモデルではなく、自社データの状態です。文書がどこにどんな形で置かれているか、誰が読めるか、業務の記録が残っているか。モデルは数か月で入れ替わりますが、整えたデータ基盤は残ります。この街の看板が示しているのは、その順番です。
自律ロボットの世界大会に見る、フィジカルAIの現在地
滞在中、UCバークレーのキャンパスで開催されていた VEX AI Robotics World Championship(6月12〜14日)を視察しました。中高生を中心とした自律ロボットの世界大会で、操縦者はいません。選手はコントローラーを手にしていますが競技中は操作せず、ロボットが自分でフィールドを認識し、判断し、得点を重ねていきます。



印象に残ったのは、ロボットの出来よりも大会の作りそのものです。フィールドの寸法、得点のルール、対戦の時間が厳密に決められていて、ロボットの賢さはすべてその枠の中で測られます。ルールが固定されているから比較ができ、比較ができるから毎年進化する。これは企業がAIを業務に組み込むときの評価の設計とまったく同じ構造です。何をもって「できた」とするかを先に決めた組織だけが、改善を積み上げられます。次の世代がその前提で育っていることに、素直に驚きました。
余談。自動運転タクシー3社の比較試乗
Waymo、Tesla の Robotaxi、Zoox の3社に乗りました。同じ自動運転でも、乗ってみると設計の考え方がまったく違います。
Waymo
配車から降車までは、いつもの配車アプリと同じ。運転席は空いています。


Tesla Robotaxi
市販車に安全要員が同乗。走行は自律で、ハンドルには触れません。


Zoox
運転席も進行方向もない専用車両。4人が向かい合って座ります。専用ラウンジから試乗できます。



既存の体験に馴染ませるか、人が補いながら移行するか、体験を作り直すか。AI導入で企業が迫られる選択と、そのまま重なります。
方式の違いと業界動向
乗り心地の違いの背後には、自動運転の方式そのものの違いがあります。Waymo と Tesla は、技術思想が大きく異なります。
Waymo は、LiDAR(レーザーで距離を測るセンサー)、レーダー、カメラを組み合わせ、事前に作り込んだ高精度地図と照らし合わせて走ります。走行する地域を限定し、その中で安全を積み上げてから範囲を広げる進め方です。センサーと地図に費用をかける代わりに、運転席を空にした商用運行をいち早く実現しました。Zoox も同じくセンサーを重ねる方式で、それを前提に車両を専用設計しています。
Tesla は、カメラの映像だけを入力とし、走行の判断をひとつの大きなニューラルネットワークに任せる方式です。高精度地図に頼らず、市販車から集まる膨大な走行データで学習させ、場所を選ばず走れる汎用性を狙います。センサーが安価なぶん車両を量産しやすい反面、無人運行の実現には人が補う段階を経ています。
環境を限定して確実性を積み上げるか、汎用モデルに賭けて一気に広げるか。業界はこの二つの思想を軸に動いており、どちらが先に採算の取れる無人運行を広い地域で実現するかが焦点になっています。これは企業のAI導入にもそのまま当てはまる問いです。業務を限定して確実に動かすところから始めるのか、汎用モデルの進化に合わせて一気に広げるのか。当社は前者から始めて後者へ移る設計を基本にしていますが、その理由はこの2社の歩みが示している通りです。

ORGANIZATION / 2026.09.04
ADOPTION / 2026.09.01
AGENTS / 2026.08.25
CONNECT / 2026.08.18
ROADMAP / 2026.08.04
NEWS / 2026.07.23
EVALUATION / 2026.07.07
KNOWLEDGE / 2026.06.23
AGENTS / 2026.06.02
OPERATIONS / 2026.05.19
CONNECT / 2026.04.28