本稿は情報提供を目的とした一般的な法制度の解説であり、個別の法的判断の根拠とするものではありません。具体的なケースについては弁護士等の専門家にご相談ください。
採用選考にAIを活用する場面が増えていますが、関連する法制度の整理は後手になりやすいです。日本国内の主要な規制と、実務上の線引きの考え方を整理します。
職業安定法が求める「目的の明示」
職業安定法第5条の5は、求人者が求職者の個人情報を収集・保管・使用する際、「業務目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして」行うことを義務づけています。
採用選考にAIを使う場合、「この情報を何の目的でAIに処理させているか」を明示することが求められます。エントリーシートや履歴書のデータを生成AIサービスへ送信して処理する場合も同様です。収集当初の利用目的に含まれていなかった処理方法を後から加える場合は、目的との整合性の確認が必要になります。
また、同法の指針では、人種・民族・社会的身分・思想・信条・労働組合への加入状況といった情報の収集を原則禁止しています。AIが外部データを参照して候補者に関する情報を生成・処理する場合、こうした禁止情報が混入しないよう注意が必要です。
個人情報保護法と個人情報保護委員会の注意喚起
個人情報保護法では、個人情報の利用目的をできる限り特定することが求められています(第17条)。採用用途で収集した情報を別の目的で転用することは、原則として認められません。
個人情報保護委員会は2023年6月2日付で「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」を公表しています。採用候補者のエントリーシートや履歴書を生成AIに投入する場面はこの注意喚起の対象になりえます。主な要求事項は次のとおりです。
- 生成AIサービスに個人データを入力する際、特定された利用目的の範囲内かを確認すること
- サービス提供者が当該データを機械学習に使用しないことを確認すること
- 要配慮個人情報(病歴・障害情報・犯罪歴等)が含まれないよう取り組むこと
利用するサービスの利用規約・プライバシーポリシーを確認することが、実務上の第一歩です。なお、2026年7月に改正個人情報保護法が成立・公布されましたが、施行日は施行令による決定待ちの状態です。採用判断への影響については今後の動向を注視する必要があります。
海外の規制動向も視野に
EU AI Actでは、採用選考に使うAIシステムが「高リスク」に分類されています(Annex III)。2026年8月2日から高リスクAIシステムへの義務が適用されました。義務の内容には、リスク管理の記録作成、人による監視、候補者への情報提供などが含まれます。欧州での採用活動、または欧州在住者からの応募を受け付けている場合は、確認が必要です。
米国ニューヨーク市では、自動雇用決定ツール(AEDT)に対してNYC Local Law 144(2023年7月から執行)が適用されています。年1回の外部バイアス監査、候補者への事前通知(使用の少なくとも10営業日前)、監査結果のウェブ公開が義務づけられています。ニューヨーク市内での採用活動を行う場合に関係します。
実務的な線引きの考え方
法制度の整備状況に関わらず、実務上の判断として以下を基準とすることが考えられます。
- 書類の要約・整理はAIが補助する: エントリーシートの要点整理や情報の一覧化をAIが行い、担当者の作業を補助する
- 合否の判断は人が行う: スコアリングやランキングをAIが出力しても、最終的な選考判断は人が担う
- 候補者への説明可能性を確保する: 「なぜその判断になったか」を採用担当者が説明できる状態を保つ
- 利用するサービスの規約を確認する: 候補者データがどう扱われるかをサービスごとに事前確認する
AIを採用に活用することと、公正で説明可能な選考を維持することは、設計次第で両立できます。法的な詳細は専門家に確認しながら、実務の設計を進めてください。
参考
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)https://www.ppc.go.jp/news/press/2023/230602kouhou/
- EU AI Act Annex III 公式解説 https://artificialintelligenceact.eu/annex/3/
- NYC Local Law 144 FAQ(NYC公式) https://www.nyc.gov/assets/dca/downloads/pdf/about/DCWP-AEDT-FAQ.pdf

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